暴力の無意味

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 老悪魔は、自分のたくらみがうまく運ばないのをみてとると、タラカン王のところへ行って、王にとり入った。
 「いかがでしょう」と彼は言った。「ひとつ戦争をしかけて、イワン王の国をとってしまおうではありませんか。あの国には金こそなけれ、穀物、家畜、その他なんでもありますから」
 タラカン王は戦争に出かけた。大きな軍隊をあつめ、鉄砲や大砲を用意して、国境へ兵を進め、イワン王国へ侵入しはじめた。
 人々はイワンのところへ来て、注進した―――
 「タラカンの王さまが戦争をしかけて来ました」
 「そうか、よしよし」とイワンは言った。「いくらでもこさせるがよい」
 タラカン王は、軍隊を率いて国境を越え、まず斥候を出して、イワンの軍隊の様子をさぐらせた。斥候はほうぼうさがしまわったが、軍隊はどこにもいなかった。で、どこから出てくるだろうと長いこと待ってみたが、軍隊についての噂すら聞こえず、戦おうにも戦う相手がなかった。タラカン王は、一隊をだして村を占領させた。いよいよ兵隊どもがある村へはいると―――ばかな男とばかな女たちとが飛びだして来て、兵隊を見ると、呆気にとられたような顔をしている。兵隊どもが彼らから穀物や家畜を奪っても、ばかたちはとるにまかせて、だれひとり自分を守ろうとするものがない。兵隊どもはつぎの村へ行った―――同じことである。兵隊どもは一日二日と進軍したが、どこまで行ってもかわりはなかった。なんでもさっさとさしだして、だれひとり自分を守ろうとするものはなく、かえって彼らに、自分たちのところへ来て暮らすようにと勧める始末。「なあ、おまえさんがた」と彼らは言うのである。「もしおまえさんたちの国で生活に困るようなら、みんなわしらのほうへ引っ越して来て暮らしなさい」兵隊どもは、どんどん進軍をつづけたが、どこにも軍隊の姿は見えず、国民はみな働いて、自分やほかの人たちを養いながら暮らしており、自分を守ることは少しもせず、ただこちらへ来てお暮らしなさいとすすめるばかり。
 兵隊どもは退屈になってきたので、タラカン王のところへ来て、言った―――
 「わたしたちは、戦争することができません、どうぞわたしたちを、ほかの国へお連れ下さい。戦争があるんなら結構ですが、これはいったいなんでしょう―――まるでゼリーでも切るようなものです。ここではもう、このうえ戦争はできません」
 タラカン王は怒って兵隊どもに、それなら国じゅうを走りまわって村を荒らし、家や穀物を焼き、家畜を殺してしまえと命じた。
 「もしこのわたしの命令にそむこうものなら」と彼は言った。「おまえたちをみんな追放してしまうぞ」
 兵隊どもは驚いて、王の命令どおりにやりはじめた。家や穀物を焼き。家畜を殺しはじめた。が、ばかたちはただ泣くばかりで、だれも自分を守ろうとするものはない。老人たちも、老婆たちも、小さい子供たちも、だれも彼もみな泣くだけだった。
 「なのために」と彼らは言うのだった。「おまえさんがたはわしらをいじめるのかね? なんのために、わしらのものを無駄にしてしまうんだね? もしおまえさんに入り用だというのなら、みんな持って行って使ったらええだに」
 兵隊どもは悲しい気分になってしまった。彼らはもう前へは進まないで、間もなく八方へ逃げ散ってしまった。


トルストイトルストイ民話集 イワンのばか 他八編』中村白葉訳/岩波文庫

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暴力の無意味

争うことの虚しさ

働くことの大切さ


深〜い話です。

おススメ。


あ、
明日、試験だw
しっかり対策して寝ます。


トルストイ民話集 イワンのばか 他八篇 (岩波文庫)

トルストイ民話集 イワンのばか 他八篇 (岩波文庫)