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迷信こそはあらゆる先入観の中でも最悪のもの

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 このことからカントは、人間における「共通感覚」の存在を主張する。これは、わかりやすく言えば、人間に共通な理解力、あるいは広い意味で人間に共通な感覚、いわゆる「センス」のことである。これは、他のすべての人の認識の仕方を考慮する反省的判断力のはたらきである。こう言えば、いかにも楽観的な想定のように見えるかもしれないが、今述べたように、反省においてはたらく認識能力(構想力と悟性)は万人において一様であることを考えあわせれば、そうでないということがわかる。人間のそのつどの判断は多くの偶然的制約や錯覚、そしてまさに先入観をともなっている。これは、最初に述べたベーコンの「洞窟のイードラ」に相当する(17ページ参照)。カントの主張の眼目は、それらから解放される唯一の方法として、自分自身を他者の立場に置いて、いわば相互主観的に考えることを説くことにある。
 そもそも、「理解する」という意味のドイツ語“verstehen”は、もともと“fur stehen”すなわち「相手の代わりに立つ(代理する)」、したがって「相手の立場に立つ」、「相手の身になる」に由来する(英語の“understand”も文字どおり「相手の下に立つ」ことを語源とし、基本的には同じ意味である)。このように、「理解する」とは、本来相互主観的なはたらき、すなわち相互主観的な思考法を意味する。このような思考法を、カントは「拡大された思考法」と呼んでいる。相手の立場に立つということは、自我の狭さを打破するのであるから、必然的に、自我を拡大することにほかならない。そして、カントは健全な「思考法」のために三つの原則を掲げる。

 1 自分自身で考えること
 2 自分自身を他者の立場に置いて考えること
 3 つねに自分自身と一致して考えること

 1は「先入観をもたない思考法」の原則であり、悟性に対するものである。3は「首尾一貫した思考法」の原則であり、理性に対するものである。2がいま問題になっている「拡大された思考法」の原則であり、判断力に対するものである。1はあらゆる哲学的思考の鉄則である。これをカントは「啓蒙」を促進する思考法としている。なぜなら、いくつかあるカントの定義の一つによれば、啓蒙とは迷信からの解放を意味するが、迷信こそはあらゆる先入観の中でも最悪のものだからである。しかしこのことは同時に、第二の「拡大された思考法」にも言えるであろう。なぜなら、自分を他者の立場に置いてものを見ることは、そのまま自分自身の先入観の排除につながるからである。そしてまた、そのことによって普遍的立場を確立することは、そのまま啓蒙をいっそう推進することを可能にするであろう。
 迷信とは、まちがった盲目的信仰のことであり、かつてはそれは主として宗教に関して言われた。かつてよりも啓蒙された今日において、はたして迷信はなくなったのであろうか。そうではないであろう。宗教の権威が低下した分だけ、つねに盲目的で、しかも楽観的な科学信仰、技術信仰が支配している。それだけでなく、科学信仰と技術信仰に比例して、奇妙にも、いかがわしい宗教形態が横行している。これは、真の啓蒙がまだ実現されていないことを告げている。それだけでなく、啓蒙とは、人間がどんなに文明化されようと、つねによりいっそうの文明化を実現すべき無限のプロセスであることを物語っている。カントのあげる第一、第二原則が今日でも、否、今日においてこそますます有効であることが納得される。よく、人間の単なる生物的進化ということが盛んに言われる。しかし、単なる生物ではなく理性的存在者でもある人間に関しては、その真の進化は開化として、すなわち啓蒙としてはじめて実現されなければならないであろう。カントは彼の時代を啓蒙時代としながらも、啓蒙された(すなわち啓蒙が完了した)時代とは呼ばなかった。啓蒙とは無限のプロセスだからである。そのかぎりにおいて、現代も、そして未来のどの時代も啓蒙時代であることにかわりはない。


(石川文康『カント入門』ちくま新書、「第6章 自由と融合する自然――反省の世界」200-203頁)

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年末は毎年の如く、忙しくなりますね。

個人的には、「忙しい」という言葉はあまり使いたくないのですが・・・

忙しさに流されて、一番大切な「心」を「亡」くすことはしたくないのであります。

心の隅っこには、いつも、明確な目的を据えておきたいですね。


さて、『カント入門』読了しました。

いくつか面白い箇所がありました。

と同時に、いくつかよく理解できなかった箇所もありました;

でも、まぁ興味深くて面白い本でしたね。


ps,
最近、鼻声が続いてますw

まさか、この年で声変わりではないでしょ!w

健康面にも気をつけて、この年末を乗り越えたいと思います。



カント入門 (ちくま新書)

カント入門 (ちくま新書)