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「師匠を持たないものは敗れる」

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「師であることの条件」は「師を持っている」ことです。

 人の師たることのできる唯一の条件はその人もまた誰かの弟子であったことがあるということです。それだけで十分なんです。弟子として師に仕え、自分の能力を無限に超える存在とつながっているという感覚を持ったことがある。ある無限に続く長い流れの中の、自分は一つの環である。長い鎖の中のただ一つの環にすぎないのだけれど、自分がいなければ、その環はとぎれてしまうという自覚と強烈な使命感を抱いたことがある。そういう感覚を持っていることが師の唯一の条件だ、と。

 弟子が師の技量を越えることなんかいくらでもあり得るわけです。そんなことあっても全然問題ではない。長い鎖の中には大きな環もあるし、小さな環もある。二つ並んでいる環の後ろの方の環が大きいからといって、鎖そのものの連続性には少しも支障がない。でも、弟子が「私は師匠を越えた」と言って、この鎖から脱落して、一つの環であることを止めたら、そこで何かが終わってしまう。

 でも、アナキンに背かれたあとも、師匠のオビ=ワンの方はまだジェダイの「騎士道」につながっている。オビ=ワン自身の師匠のヨーダに対する深い敬意は少しも変わらない。だから、弟子のアナキンに離反されたあとも、オビ=ワン自身は成長を続けることができる。師を越えたと思った瞬間にアナキンは成長を止めるけれど、師は越えられないと信じているオビ=ワンは成長を止めない。

 今言っている「成長」というのは計測可能な技量のことではないんです。ある種の開放性と言ったらいいでしょうか。自分の中のどこかに外部へと続く「ドア」が開いている。年を取っていようが、体力が衰えようが、つねに自分とは違うもの、自分を越えるものに向けて開かれている。そうやって、自分の中に滔々と流れ込んでくるものを受け止めて、それを次の世代に流していく。そういう「パッサー」という仕事が自分の役割だということがわかっているということです。

 それに対してアナキンは「俺は師よりも強い」という自信を得たときに「ドア」を閉じてしまう。自己完結してしまう。自己完結した「近代的自我」として自立してしまう。そして、近代的自我であるアナキンは、前近代的な師弟関係に支えられたオビ=ワンに敗れるわけです。

(中略)

 映画の細かい話に入ってしまうとつい興奮してしまうので、これ以上は踏み込ませんけれど、とにかくジョージ・ルーカスはアメリカ人には珍しく師弟関係の力学とドラマツルギーに深い興味を持つ人だということです。そのルーカスが出した結論が「師匠を持たないものは敗れる」ということでした。

 師弟関係で重要なのは、どれほどの技量があるとか、何を知っているとかいう数量的な問題ではないんです。師から伝統を継承し、自分の弟子にそれを伝授する。師の仕事というのは極論すると、それだけなんです。「先人から受け取って、後代に手渡す」だけで、誰でも師としての機能し得る。僕はそういうふうに考えていますし、およそこれまで師弟関係について書かれたすべての言葉はそう教えていると思います。

 

内田樹 『下流志向』「第四章 質疑応答」210-213頁、講談社文庫、2009年)

 

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昨日に引き続き、師弟関係について。

「俺は師匠より強くなったんだ。もう師匠は必要ねぇ!」と思った瞬間に退転が始まる。初めから師匠を持たない人は、それ以前の問題ですが・・・。

 

師匠の姿、振る舞いに弟子たちは奮い立ち、数々の困難を乗り越え、個々人の幸福境涯を築き上げていくと思いますが、その師匠を師匠たらしめているものは、その師もまた自身の「師を持っている」ということなんですね。自分の師匠も、また弟子であるということは、「弟子とはこういうものである!」と、私に示してくれるわけですね。弟子として師の薫陶を受けていない者が、師として振る舞うことができるはずがありません。

師匠の師匠がいるということは、師と共に、その師(師匠の師匠)から学ぶことも多くあります。

師とは、死んでも師でありますから、師匠が、弟子として(今は亡き)師匠との誓いを今でも果たそうとするその姿に、私たちも弟子としての姿勢を学ぶんですね。

 

誰を師匠として仕えるのかという問題は、人生に大きな影響を与えるものなので、自分の師匠が、真の師匠であるのかどうか。この辺も考えてみると、一目瞭然。

 

 

ps,

しばらく雨が降っていませんでしたが、今、強い雨が降っております。

梅雨らしく、ジメジメとした暑さがやってきました。そして、雨。台風も出てきましたね。

事故には十分気をつけて、前進していこう。

 

 

下流志向〈学ばない子どもたち 働かない若者たち〉 (講談社文庫)

下流志向〈学ばない子どもたち 働かない若者たち〉 (講談社文庫)