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人間の命は「手段」ではなく「目的」であること

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 そして気づいたことはこうだ。核戦争であれ核事故であれ、即死者はもちろん悲惨だが、生き残った被爆者たちあるいは原発事故や核事故の被曝者たちの多くが、大内、篠原両氏のように、数日ないし数週間、あるいは数ヶ月、地獄の拷問に等しい経過を経て死に至る人々が続出するということだ。さらに、それでも生き残った被爆(曝)者たちも、十年後、三十年後にがんなどを発症する人々が少なくないことを、歴史は示している。その苛酷な事実を知らずに、核武装論などを言い出す言論人に、私は寒気を覚える。

 

 

(NHK「東海村臨界事故」取材班 『朽ちていった命 ―被曝治療83日間の記録』「解説」219頁、新潮文庫

 

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 『朽ちていった命―被曝治療83日間の記録』読了。

1999年9月に起きた茨城県東海村での臨界事故。大量の放射能を浴びた患者を救うべく壮絶な闘いがあった。徐々に朽ちていく患者の体。医療スタッフの苦悩。家族の支え。最後まで「生きよう」とする命の強さを感じた。

 

被曝によるあまりにも悲惨な身体への影響は、読んでいるだけも痛々しい。途中で読むのが辛くなったほど。この悲惨な状況が、68年前の今日、一瞬にして多くの人々を襲った歴史も忘れてはならない。

 

99年にこのような事故があったとは知らなかった。当時、小学生だったので知っているはずもなく・・・;

 

放射能の恐ろしさを改めて思い知らされた。

 

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「最先端の薬や技術を総動員しても、あらゆる臓器、組織、機能が総崩れになっていくのを食い止めることができない」

(同、218頁)

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被曝してから、日を追うごとに患者の体はめちゃくちゃになっていく。治療を続けても、「助からない」という絶望感が医療スタッフを襲う。

 

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「ここにいる人は何だろう。だれなんだろうではなく、何だろう。体がある、それもきれいな体ではなくて、ボロボロになった体がある。その体のまわりに機械が付いているだけ。自分たち看護婦は、その体を相手に、次からつぎに、その体を維持するために、乾きそうな角膜を維持するために、はげてきそうな皮膚を覆うために、そういう処置ばかりをどんどんつづけなければならなかったんです。自分は一体何のためにやっているんだろう。自分は別に角膜を守りたいわけではない。大内さんを守るためにやっているんだ。

 そう思わないと耐えられないケアばかりでした。大内さんを思い出しながらでないと、自分のやっていることの意味を見いだせないような、そんな毎日でした」

(同、「小さな希望 ―被曝50日目」129頁)

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このような状況の中で、スタッフたちは励まし合い、決して希望を捨てずに治療に当たった。特に、リーダーの前川教授は相当なプレッシャーに耐えていたことだろうと思う。リーダーが毅然とした態度でないとその場の空気に必ず影響が出て、治療にも油断が生じる。

前川を含めた医療スタッフの支えとなったのは、患者の家族の最後まで諦めない「希望」だった。そして、患者自身の声にならない「生きよう」とする全身での訴えである。解剖の際に、皮膚や、あらゆる臓器、そして筋肉でさえもズタズタになった中で、唯一、心臓だけはきれいに残っていたという。

 

歴史から、事実から何を学ぶのか。

未来に責任があるボクたちは、よく考えなければいけないと思います。

戦争にしても、あってからでは遅いんですね。戦争も止められません。必ず「悲惨」の二字が待っている。

原子力安全神話という虚構のなかで、2年前にも原発事故があった。再稼働の問題もある中で、今一度、人命が軽んじられていないか。よくよく考えてみることも必要かと。

「生命尊厳」の哲学は、戦争にしろ、原発にしろ、あらゆる分野の根本とならなければならないと思うわけです。教育ももちろん、経済、政治、環境、建築等々、現代社会における国際社会の問題から、日常生活レベルの問題まで、一切が「生命尊厳」の哲学がなければ、いずれ、人間の命は、「目的」から「手段」に変わっていくのでしょうね。。。

 

最悪の状況の中でも、あくまで「人間の命」と向かい合った当時の医療スタッフの皆さんに学ぶべき点は多いと思います。

多くのことを考えさせられる本です。

 

 

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 でも、前川教授は決意を変えませんでした。前川教授は「患者さんが気の毒じゃないか。うちで最高の全身管理をしてあげたい」とおっしゃいました。私は「わかりました」と答えるしかありませんでした。

 医者が患者を死なせてしまうことはどんなことがあっても不名誉なことです。その不名誉をあえて背負ってでも助けたいと思っているのだから、そう言われると、あとは協力するしかありませんでしたね」

 実際、衣笠は大内の転院後も東大病院に泊まり込んで前川を助けた。前川の情熱が衣笠を動かしたのだ。

(同、「邂逅―被曝2日目」25頁)

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朽ちていった命―被曝治療83日間の記録 (新潮文庫)

朽ちていった命―被曝治療83日間の記録 (新潮文庫)