彼らは昔と異なる仕方で生きる手応えの世界を切実に欲している
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もう日常は不便では無い。家の中には便利な家電が並び、近くにはコンビニエンスストアが何件もある。「スイッチを押せば手に入る」「買ってくれば食べられる」という世界が日常化している。
その楽しさの一方で、何かが消えようとしている。
工夫をしたり、知恵を絞らなくても十分楽なので、自らの頭を使うということもさして必要でなくなった。の結果、頭を使い、腕をふるえばこんなことが手に入ると言うリアリティやアクチュアリティが希薄になっていってしまった。
楽さを志向する生活文化に幼い頃から巻き込まれて育った子供たちも、リアリティやアクチュアリティの希薄さに対する不満感のようなものを表現し始めているように思う。ゲームにあれほど熱中するのは、少なくともゲームをしているときはスキルアップや謎解きに挑んでいるというアクチュアリティが感じられるからで、それが現実よりもバーチャル世界でなら得られるからであろう。現代の子どもたちを理解するときにもっとも大事なことはこのことで、彼らは昔と異なる仕方で生きる手応えの世界を切実に欲していると見るべきなのである。
(汐見稔幸 『本当は怖い小学一年生』「第4章「小さな社会」が手応えをつくる」ポプラ新書、113-114頁、2013年)
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