本来、子供たちに最初に教えるべきなのは、「このこと」のはずです

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 重ねて申し上げますけれど、競争を強化しても学力が上がりません。少なくとも、今の日本のように閉じられた状況、限られたメンバーの間での「ラット・レース」で優劣を決めている限り、学力はありません。下がり続けます。
 学力を上げるためには、自分たちのいる場所とは違う場所、「外」とのかかわりが必須です。荒野の七人では山賊が、大脱走ではドイツ軍の看守が、主人公たちの活動を阻んでいます。だからこそ、自分に「できないないこと」の検出に真剣になるのです。その欠陥を埋めておかないと、「外」を相手にしたプロジェクト(山賊退治、捕虜収容所からの脱走)は成功しないからです。ですから、当然、「自分にできないこと」を「自分に代わって引き受けてくれる仲間」に対しては深い敬意が示され、できる限りの支援を行うことが必須になります。
 本来、子供たちに最初に教えるべきなのは、「このこと」のはずです。どうやって助け合うか、どうやって支援し合うか、どうやって一人では決して達成できないような大きな仕事を協同的に成し遂げるか。そのために必要な人間的能力を育てることに教育資源はまず集中されるべきでしょう。
 しかし、今の日本ではそうなっていない。
 むしろ、どうやって仲間の足を引っ張るか、どうやって仲間の邪魔をするか、どうやって一人だけ他人を出し抜いて「いい思い」をするか、そういう「えげつない」作法を子どもの頃から教え込まれている。「競争に勝て」というのは要するにそういうことだからです。親や教師があからさまにそういう言葉づかいをしなくても、子どもにはわかります。そうやってきた結果が、「こういうふう」になった。
 だったら、もう「そういうこと」はやめる潮時でしょう。

 

内田樹 『街場の教育論』「第5講 コミュニケーションの教育」108-109頁、ミシマ社、2008年)

 

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街場の教育論

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