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いまの世の中は一滴一滴の水が力をもち、自分の意思で世の中を変えていく

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  「水は人民だ。川の流れも、湖も、あるいは海でさえも、バラバラにしてしまえばたどり着くところ一滴の水になる。しかし一滴一滴の水には力がない。集まって湖となり、川となってひとつの形をなしたときに、力を得る。しかし、水自体にみずからの形はない。方すなわち四角いものに入れられれば四角く姿を変え、円すなわち丸い物に入れられれば丸く姿を変える。したがって、容器の形態に水は自分を合わせる。これが水は方円の器に従うということばの意味だろう。おれもそう思ってきた。ところがきょう会議を開いていて、そのことばもいまは変わったなということを感じた」

「よくわかりません」

「つまり、いまの世の中は一滴一滴の水が力をもち、自分の意思で世の中を変えていくということだ。范増がきょう話したことは、たしかにいままでの考え方からすれば、王家の血統を重んじ、いわゆる貴種尊重という形でわれわれの指導者を選び出そうということだろう。しかし、それを求めているのも一滴一滴の水、すなわち人民の意思なのだということをおれはつくづくと感じたよ。きょうの会議で、范増は陳王と呼ばずに陳勝と呼び捨てにして、范増自身は、決して陳勝を敬愛していないことを示した。したがって、かれは陳勝を決して王とは呼ばない。王と呼ばないのではなく、呼びたくないのだ。これはむかしながらの貴種尊重の伝統を、范増がそのまま保っているということだ。ところが、一方には陳勝を陳王として、敬愛の念を強くもっていた者がたくさんいる。したがって、いまのこの国では、方円の器に従う水の群れと、逆に方円の器を従わせる水の群れとが共生しているということを物語る。おれがつくづくと感じたのは、自分の意思をもちはじめた一滴一滴の水の存在だ。これは恐ろしい。おれたちもよく考えなければならぬ」


童門冬二項羽と劉邦  知と情の組織術』「第三章 項羽をめぐる群雄」109-110頁、講談社文庫)

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司馬遼太郎さんの『項羽と劉邦』は最高に面白かったですが、童門冬二さんも読みやすくて面白い。

学ぶこと多し。

小説としても面白く読めます。



ps,

担任になり、読書量がめっきり減ってしまいましたが、学ぶことを止めるわけにはいきません。



小説 項羽と劉邦 (講談社文庫)

小説 項羽と劉邦 (講談社文庫)