金では買えん財産や

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「勉強するて、何のために」

 どこまで本気なのか、打診してみたいという気持ちもある。

「何のためにって、自分の向上のためにです」

「秀ちゃんは、本読むだけで成長でけると思うてるの」

 秀は、ちょっとむずかしい表情になり、鼻の先に皺を寄せた。それがとてもかわいらしく見えた。

「ええか秀ちゃん、本ばかり読んで、世の中から遠ざかったら何もならへん。本の虫になって、常識のない人間になってはあかんで。生きた学問せなあかん」

「生きた学問て」

 行儀よく姿勢を正し、秀は小首をかしげた。

「自分だけ知識得ても、しまいこんでしもて社会に役立てんようではあかんのや。人間て、人の間て書くやろ。他人さんのおかげ蒙って生きてる。自分だけやのうて、もっと人のことも考えなあかん」

 秀は浅子の話を熱心に聞いている。亀子は、何も言わずにおとなしく坐っているだけである。

「日本で初めての女子大学校創立するために、うちも働かしてもろてます。寄付金集めるために、えらい時間と労力使うてな、加島屋の御寮はんは阿呆やないかて言うてる人もおる。秀ちゃんも、そう思うか」

尊いことだと思います。一文の得にもならなくても、女子教育のためにという目的がはっきりしていますから」

「うちは商人やから、多少は損得も考える。金の損得やないで。得にも大きい利と小さい利があるのや」

 浅子の話に興味があるようで、秀の目が熱っぽく輝いている。お茶にも手をつけずに聞いている。

「女子大学校創立に走り回って、利益にならん思うてる人も多い。しかし日本の国動かしてるような人にぎょうさん会うて、知り合いになることがでけた。大きな得したことになる。金では買えん財産や」

 たった二人の若い聴衆を前に、浅子は熱弁をふるった。

「蔵に腐るほど金あるのに、寄付など、びた一文出さんていう家もある。自分のことには金かけるのに、公益のためには出せんいうのや」

「生きた学問て、机に齧りついているだけではなく、いろんな人に会って、いろんなものを見て、視野を広めることなのだと分かりました」

「そうや、それが自分磨いて、人間つくっていくことになるんや」

 聡明な秀は、浅子の言おうとするところを的確にとらえている。

 

 

(古川智映子『土佐堀川 広岡浅子の生涯』234-236頁、潮文庫

 

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女性実業家として活躍した広岡浅子の生涯を描いた小説を読みました。

何度も逆境に立たされますが、強い信念と、行動力で乗り切っていきます。明治維新の激動の時代、先が見えない時代に正しい判断をするためには、それ相当の知識も必要ですし、今の現状を正しく見つめ、打開策を見つける知恵も必要。

そして、思い切った決断力。また、周りを説得する粘り強い行動力。

どんな状況になろうとも、決して諦めない強さがありました。浅子の信念と行動力で、周りの人たちもよき理解者となり、協力者が増えていきます。

病魔をも、つけ入る隙のないぐらい怒涛の日々を走り抜けた人生。

女子教育にも力を注ぎ、人材育成にも奔走しました。

 

NHK朝の連続テレビ小説でもやっていましたね。僕は見ていませんが・・・。

 

 

忙しい毎日の中で、なかなか読書が進まなかったですが、本日『土佐堀川 広岡浅子の生涯』を読了。

不屈の「信念」と、「行動力」

読み終わって、この二つが印象に残りました。幾度となく逆境を乗り越える浅子ですが、本人の信念と行動力ももちろんですが、それだけでなく、この二つによって、周りの人たちの支えと協力も、逆境を乗り越えるために大きな力となりました。

「本気の一人」が立ち、それに続く同志。時代を変える力は、いつの時代も、この法則だと思いました。

よき同志は、金では買えん財産や。

時間はかかりましたが、おもしろく読めました。

 

さて、2017年も、あと1日。

今日は大掃除をして、部屋がスッキリ。

いい年を迎えたいと思います。

では、よいお年を。

 

 

文庫版 小説 土佐堀川 広岡浅子の生涯 (潮文庫)

文庫版 小説 土佐堀川 広岡浅子の生涯 (潮文庫)

 

 

 

 

 

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